側弯症装具の勉強

【はじめに】

 側弯症装具の文献といえば、私は藤原先生の「脊柱側弯症の装具治療」1)  がまず思い浮かびます。学生時代、レポート課題の際に助けられました。

 しかし、同文献が出版されたのも5年前。日常の臨床で側弯症装具に関わることがない身ですが、最低限の情報更新はしておきたいと思い、和文誌を対象に文献調査を行いました。備忘録も兼ねてまとめましたので、参考になりましたら幸いです。

 

※ 本記事はいかなる査読も受けていません。引用する場合は必ず原文を確認するようにお願いします ※

 

【文献検索方法】

 文献検索は次の条件で実施しました。

 2018年以前は藤原先生の文献1) で勉強するとして、今回はそれ以降の文献を検索しました。

 

データベース

Google Scholar

期間

2018年~2023年5月15日

検索式

“側弯” AND “装具”

Criteria(基準的な)

①     和文誌のみ

②     側弯症装具について述べている文献

③     側弯症のみ/装具のみに言及している文献は除外

 

PRISMA風の文献抽出過程】

文献抽出過程は次のFlow Diagramのように実施しました。なお、このFlow DiagramはPRISMA声明 (the Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-Analyses)2)を参考に作成したものです

 

 


【文献リスト】

 29本の論文が基準を満たしました。

 装具ごとに分類すると、次のような結果でした(重複あり)。

・プレーリーくん9本

・OMC、Boston各4件

・SNNB、CTLSO (つまりミルウォーキー)、TLSO (Hiroshima)各2件

・Lycra Dynamic Orthosis、AC、体幹コルセット、AMEC (仮称)、ゲンシンゲン各1件

 

題名 装具 疾患等 要旨
Lycra Suitの装着が姿勢保持と傍ストーマヘルニア還納に有効であった Hirschsprung病児の一例 3)  Lycra Dynamic Orthosis Hirschsprung病

Hirschsprung病に対し進行予防・姿勢保持目的にLycra suitを作成。姿勢保持&ヘルニアの突出を改善。

脳性麻痺に対するリハビリテーション医療4) 

言及なし 脳性麻痺

装具療法は座位バランスの改善は期待できるが、進行防止はできない

思春期特発性側弯症に対して Cheneau 装具の初期矯正率の検討5) Cheneau v.s. OMC&Boston&AC 思春期特発性側弯症 Cheneau - 従来装具間で初期矯正率(装着1ヶ月)を比較 (各群50例、計100例)。初期矯正率や装着時間に有意差なし
思春期特発性側弯症に対する Boston 装具のカーブタイプ別初期矯正効果6) Boston 思春期特発性側弯症 68例に対して介入。King分類ごとの初期矯正率を報告。すべてのカーブタイプで矯正効果あり。
動的脊柱装具(プレーリーくん® )が胸郭の伸張率と厚みに及ぼす影響 − 3 症例による検討−7) プレーリーくん 脳性麻痺2例、脳炎後遺症1例 装着/非装着でCobb角を比較。127度→112度、装着23h/day。91度→72度、装着20h/day。116度→104度、装着14h/day。
当園における動的脊柱装具(プレーリーくん®)の使用状況と装着効果についての検討8) プレーリーくん 明記なし(おそらく脳性麻痺 装着/非装着でCobb角を比較。半年以上経過した19名:5度以上改善6名、維持6名、5度以上進行7名(各群に装着時間に差異なし)。生活場面で18例に効果あり。
地域での多職種連携にリハビリテーション科医の果たす役割― 二分脊椎児をめぐる課題を通して―9) プレーリーくん 二分脊椎 8歳時、訪問PTから側弯矯正の相談があり、DSB作製。(Cobb角などの記載なし)
パーキンソン病にて伴う脊柱側弯に対してDynamic spine braceを用い作業療法で立位動作が改善した症例10) プレーリーくん パーキンソン病 70歳代女性。8年前にPD診断、5年前に側弯合併。DSB装着し訓練。訓練開始と6か月で計測。立位動作改善 (FIMに変化なし) 
脊柱側弯を伴ったパーキンソン病患者に対し動的脊柱装具を装着し運動機能が改善した1症例11) プレーリーくん パーキンソン病 側弯合併のPD患者がDSBを装着し、運動機能とQOL改善。屋外歩行が可能となった。(FIMに変化なし)
アラインメント悪化要因の改善と動きの学習および補装具併用で側弯の進行は抑制できる12) プレーリーくん 原因不明の脳障害 座位保持装置やDSBの作製、訓練などの結果、身長の急成長に関わらず、側弯進行抑制。
脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(スピンラザ®)の薬理学的特徴と臨床試験成績13) 言及なし 脊髄性筋萎縮症 全体的な生存率の改善には寄与しているが、運動機能や筋力を向上させる治療ではない
小児痙縮・ジストニアの診療アルゴリズム:上肢・体幹を中心に14) 言及なし 脳性麻痺 進行を抑制するが、長期予後の改善は困難。
重度成人脊柱変形の保存治療に関する検討15) 言及なし 重度成人脊柱変形 (de novo、特発性側弯症遺残など) 薬物治療のみ64%、薬物治療+ブロック治療11例、薬物療法+装具治療7%など。装具療法のみの記述はなし。
成長期の脊髄性筋萎縮症Ⅲ型患者へのヌシネルセンナトリウム髄注治療と理学療法経験16) 体幹コルセット 脊髄性筋萎縮症(Ⅲ型) Cobb角39→103度(2y2m)。体幹装具や補高を処方したが、側弯は進行した。
側弯症の呼吸運動による有限要素法を用いた体幹変形に関する研究17) 言及なし 言及なし

CTなどのデータから脊柱と肋骨の3Dモデルを作成し、応力分布を調査。

側弯進行させると予想される力を抑え込むように装具が設計されている、とのこと。

思春期特発性側弯症矯正手術後患者に対する抜釘術における術後アライメント変化と合併症18) 言及なし 思春期特発性側弯症 考察で文献を引用し、「抜釘術後の装具の使用の必要性」を推奨。
早期発症側弯症に対する矯正ギプス治療の短期成績19) CTLSO、TLSO 早期発症側弯症 ARCB (Alternatively-repetitive-cast-and-brace) を早期発症側弯症に実施した報告 (18例)。Cobb角治療前69.4度→cast最大矯正時34.2→brace52.5度→braceなし57.0度
点状軟骨異形成症に合併した側弯症2例の長期治療経過20) 言及なし Conradi-Hünermann型点状軟骨異形成症 点状軟骨異形成症2例に合併した側弯症の治療。1例で装具治療した後に手術、1例で装具療法未実施で手術。
Growing rod手術後早期にrod切損を生じた早期発症側弯症の1例21) CTLSO 早期発症側弯症 (Marfan症候群類似疾患)

手術までのタイミングをできるだけ遅らせるためにARCBを計6回施行。術後も装具装着。

麻痺性脊柱側弯症の自然経過22) 言及なし

脳原性疾患 (脳性麻痺脳炎後遺症)

考察で文献を引用し、「麻痺性側弯症は装具で進行と止められない」「側弯の進行に伴って呼吸機能が低下するため、進行例での装具治療はかえって胸郭の広がりを妨げる」
若年者脊柱変形23) 言及なし 特発性側弯症

側弯症装具の歴史について記述あり。

12歳で装具療法を開始。側弯進行。15歳で成長終了を確認し、装具療法終了。その後も進行し、17歳で手術。

症候群性側弯症を合併した5p欠失症候群に対する治療経験:3例報告24) TLSO 5p欠失症候群 3例中2例で装具療法。1例は悪化抑制困難で手術。1例は装具療法で進行抑制。
TLSO(Hiroshima)による臨床変形の矯正について25) TLSO(Hiroshima) 特発性側弯症 TLSO (Hiroshima) を装着した21例をSilhouetter映像で評価。Cobb角平均6度矯正。
活動·参加を支える脳性麻痺の脊柱装具26) プレーリーくん 脳性麻痺 DSB使用者の介助者へのアンケート、使用者の座圧測定、咬合力測定。装着で座圧の左右差減少、咬合力増加。
小児側弯症患者における装具療法が腹部体幹筋力におよぼす影響27) OMC、Boston 早期特発性側弯症、思春期特発性側弯症 装具装着による体幹筋力への影響を検討 (20例, 装着6か月)。装着中の腹部体幹筋力の変化が側弯進行に関連している可能性が示唆。
脊柱側弯症の装具治療1) Cheneau、OMC、SNNB、プレーリーくん、TLSO (Hiroshima)、Boston、AMEC (仮称) 特発性側弯症 特発性側弯症に関する総説
症候性側弯症に対して体幹装具と座位荷重バランス練習を併用した2症例の報告28) プレーリーくん 重度精神運動発達遅滞、横断性脊椎炎 側弯に対し装具療法を、体幹偏移と骨盤傾斜に対し運動療法車いすクッションの変更で対処。Cobb角、体幹偏移、骨盤傾斜いずれも改善。
思春期特発性側弯症患者に対する運動療法と装具療法を実施した一症例29) SNNB、OMC 思春期特発性側弯症 Risser0に対し21か月間、装具療法とシュロス法を実施。胸椎6度、腰椎21度改善。
思春期特発性脊柱側弯症に対する最新の保存療法30) ゲンシンゲン装具 思春期特発性側弯症 25度以下の症例に対して介入。装着/非装着でCobb角を比較(10例)。運動療法併用。胸椎カーブ24→10度(最大)。腰椎カーブ最大17→4度(最大)。

 

【感想】

大変。疲れた。

 以下に3点軽く感想をメモ書きしておきます。

・今回、スクリーニングでGrowing Rodという術式が多く目につきました。

・SMAも目につきました。ゾルゲンスマが認可されたばかりなのでその影響があるのでしょうか。

・高齢化に伴い、パーキンソン病に伴う側弯が増加しているのか、症例報告が2件見られた。

 

【装具療法の未開拓領域?】

・種市31)および吉江ら15)は、成人脊柱変形ではde novo変性腰椎側弯症が最多であることを報告している。しかし、種市はde novo変性腰椎側弯症に対して保存療法は有効でないとしている。

・泉ら32)は、特発性頸椎後弯症に対する装具療法が困難であるとしている。

 

【今後の課題、というほどでもない今回のまとめに含めたかった文献】

 今回の文献調査は、趣味の範囲内で行ったものですので、以下4本の有料文献は含めませんでした。

・小児側弯症治療の最前線33)

・臨床経験 大阪医大式(OMC)側弯装具に対する患者アンケート調査34)

・臨床経験 特発性側弯症への装具治療成績-奈良県立医科大学側弯外来データから35)

思春期特発性側弯症に対する夜間専用側弯矯正装具(SNNB)の使用経験36)

 

【まとめ】

 今回は側弯症装具についてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。

 これからも側弯症装具から目が離せませんね!

 

 

【参考文献】

1) 藤原憲太:脊柱側弯症の装具治療, 日本義肢装具学会誌, 34(3), 208-215, 2018.

2) PRISMA statement: PRISMA, http://prisma-statement.org/ (2023.5.14.参照).

3)  原田航輔ほか:Lycra Suitの装着が姿勢保持と傍ストーマヘルニア還納に有効であった Hirschsprung病児の一例, the Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 58(Autumn), S367, 2021.

4)  朝貝芳美:脳性麻痺に対するリハビリテーション医療, the Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 57(Supplement), S503, 2020.

5)  岩沢太司ほか:思春期特発性側弯症に対して Cheneau 装具の初期矯正率の検討, Jounal of Spine Research, 13(3), 281, 2022.

6)  清水佑一ほか:思春期特発性側弯症に対する Boston 装具のカーブタイプ別初期矯正効果, Jounal of Spine Research, 13(3), 281, 2022.

7)  高橋彰子ほか:動的脊柱装具(プレーリーくん®)が胸郭の伸張率と厚みに及ぼす影響 − 3 症例による検討−, 日本重症心身障害学会誌, 38(2), 310, 2013.

8)  伊藤恭江ほか:当園における動的脊柱装具(プレーリーくん® ) の使用状況と装着効果についての検討, 日本重症心身障害学会誌, 38(2), 310, 2013.

9)  高島典宏ほか:地域での多職種連携にリハビリテーション科医が果たす役割 -二分脊椎児をめぐる課題を通して- , the Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 57(Autumn), S378, 2020. 

10) 谷口康裕ほか:パーキンソン病にて伴う脊柱側弯に対してDynamic spine braceを用い作業療法で立位動作が改善した症例, the Japanese Jounal of Rehabilitation Medicine, 57(Autumn), S428, 2020. 

11) 材木力斗ほか:脊柱側弯を伴ったパーキンソン病患者に対し動的脊柱装具を装着し運動機能が改善した1症例, the Japanese Jounal of Rehabilitation Medicine, 57(Autumn), S428, 2020. 

12) 杉浦眞紀ほか:アラインメント悪化要因の改善と動きの学習および補装具併用で側弯の進行は抑制できる, 日本重症心身障害学会誌, 43(2), 386, 2018.

13) 大村剛史ほか:脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(スピンラザ®)の薬理学的特徴と臨床試験成績, 日本薬理学雑誌, 152(3), 147-159, 2018.

14) 根津敦夫:小児痙縮・ジストニアの診療アルゴリズム : 上肢・体幹を中心に, 脳と発達, 52(3), 188-190, 2020.

15) 吉江範親ほか:重度成人脊柱変形の保存治療に関する検討, Journal of Spine Research, 13(11), 1217-1222, 2022.

16) 髙石恵太ほか:成長期の脊髄性筋萎縮症Ⅲ型患者へのヌシネルセンナトリウム髄注治療と理学療法経験, 理学療法Supplement, 47(1).

17) 加藤浩仁:側弯症の呼吸運動による有限要素法を用いた体幹変形に関する研究, 情報処理学会論文誌, 61(11), 1771-1778, 2020.

18) 田内亮吏ほか:思春期特発性側弯症矯正手術後患者に対する抜釘術における術後アライメント変化と合併症, Journal of Spine Research, 11(11), 1285-1290, 2020.

19) 飯塚正明ほか:早期発症側弯症に対する矯正ギプス治療の短期成績, Jornal of Spine Research, 12(11) ,1326-1331, 2021.

20) 馬場聡史ほか:点状軟骨異形成症に合併した側弯症2例の長期治療経過, Journal of Spine Research, 12(4), 678-684, 2021.

21) 大里倫之ほか:Growing rod手術後早期にrod切損を生じた早期発症側弯症の1例, Journal of Spine Research, 13(11), 1258-1263, 2022.

22) 成田亜矢ほか:麻痺性脊柱側弯症の自然経過, the Japanense Journal of Rehabilitation Medicine, 55(5), 424-429, 2018.

23) 神崎浩二:若年性脊柱変形, 昭和学士雑誌, 79(3), 304-309, 2019.

24) 大里倫之ほか:症候群性側弯症を合併した5p欠失症候群に対する治療経験:3例報告, Journal of Spine Research, 14(4), 739-744. 2023.

25) 泉恭博ほか:TLSO(Hiroshima)による臨床変形の矯正について, Journal of Spine Research, 11(11), 1272-1278, 2020.

26) 吉田清志ほか:活動·参加を支える脳性麻痺の脊柱装具, 日本義肢装具学会誌, 35(4), 276-279, 2019.

27) 奥規博ほか:小児側弯症患者における装具療法が腹部体幹筋力におよぼす影響, Jornal of Spine Research, 12(11), 1306-1310, 2021.

28) 三鴨可奈子ほか:症候性側弯症に対して体幹装具と座位荷重バランス練習を併用した2症例の報告, 理学療法学, 47(3), 2020.

29) 山本愛ほか:思春期特発性側弯症患者に対する運動療法と装具療法を実施した一症例, 理学療法学Supplement, 46(1), 165, 2021.

30) 石原知以子ほか:思春期特発性脊柱側弯症に対する最新の保存療法, 保健医療研究, 9(1), 1-10, 2019.

31) 種市洋:高齢者脊椎疾患の整形外科マネージメント,the Japan journal of medicine rehabilitation medicine,57(supplement), 2020.

32) 泉恭博ほか:検診では小児の頸椎後弯変形が忘れられている, Journal of Spine Research, 11(11), 1265-1271, 2020.

33) 日本側弯症学会(編):小児側弯症治療の最前線, 南江堂, 2021.

34) 重松英樹ほか:臨床経験 大阪医大式(OMC)側弯装具に対する患者アンケート調査, 臨床整形外科, 54(12), 1287-1291, 2019.

35) 重松英樹ほか:臨床経験 特発性側弯症への装具治療成績-奈良県立医科大学側弯外来データから, 臨床整形外科, 53(8), 727-730, 2018.

36) 藤原啓恭ほか:思春期特発性側弯症に対する夜間専用側弯矯正装具(SNNB)の使用経験, 中部日本整形外科災害外科学会雑誌, 61(4) ,739-740, 2018.